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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)9146号 判決 1971年2月06日

主文

一  被告花井幸蔵は原告に対し別紙目録二記載の建物から退去して同目録一記載の土地を明渡せ。

二  原告の被告東保昭次に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告花井幸蔵間に生じた分は同被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

請求の趣旨

一  被告東保昭次は原告に対し別紙目録二記載の建物を収去して同目録一記載の土地を明渡し、かつ、昭和三八年七月二四日から右土地明渡し済みに至るまで一ケ月金三、四〇〇円の割合による金銭を支払え。

二  被告花井幸蔵は原告に対し別紙目録二記載の建物から退去して同目録一記載の土地を明渡せ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

請求の趣旨に対する被告らの答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

請求の原因

一  原告は別紙目録一記載の土地(以下本件土地という。)を所有している。

二(一)  被告東保昭次は昭和三八年七月二四日以前から本件土地上に別紙目録二記載の建物(以下本件建物という。)を所有して本件土地を占有し、一ケ月金三、四〇〇円の割合の損害を与えている。

(二)  被告花井幸蔵は本件建物に居住して本件土地を占有している。

三  よつて、原告は被告東保昭次に対し本件建物を収去して本件土地を明渡し、かつ昭和三八年七月二四日から右土地明渡し済みに至るまで一ケ月金三、四〇〇円の割合の損害金の支払いを求め、被告花井幸蔵に対し本件建物から退去して、本件土地を明渡すことを求める。

請求原因に対する被告東保昭次の認否

請求原因一項、二項(一)の事実は認める。

同被告の抗弁

一  被告東保は、昭和二九年八月一〇日、本件土地を当時の所有者であつた訴外後藤長七郎から普通建物所有の目的で、期間の定めなく、賃料一カ月金八〇〇円の約定で賃借し、昭和三二年四月八日、本件建物の所有権を取得し、その旨の登記を経た。

二(一)  訴外後藤長七郎は、昭和三〇年六月一五日、その所有の本件土地について訴外光信用金庫のために元本極度額金二〇〇万円の根抵当権を設定し、同年七月六日訴外日本宣伝商事株式会社にこれを売渡し、同月二二日その旨の登記を経た。

(二)  訴外光信用金庫の申立により右抵当権が実行され、原告は昭和三七年一二月二〇日競落許可決定(東京地方裁判所昭和三二年(ケ)第一五七四号)により本件土地の所有権を取得し、昭和三八年七月二四日原告のため所有権取得の登記を経た。

三  仮りに一項の賃貸借契約の成立が認められないとしても、前記の如く訴外後藤長七郎が訴外光信用金庫のために本件土地に根抵当権を設定した昭和三〇年六月一五日当時、その上にあつた本件建物は訴外後藤長七郎の所有または同訴外人と訴外後藤春枝、同鯛瀬幸枝の共有であつた。そして、被告東保は右後藤長七郎または右三名から昭和三二年四月八日本件建物の所有権を取得し、その旨の登記を経たのであるから、同被告は競落により本件土地の所有権を取得した原告に対し法定地上権を取得した。

抗弁に対する答弁

一  抗弁一項のうち、昭和二九年八月一〇日当時訴外後藤長七郎が本件土地を所有していたことおよび被告東保が昭和三二年四月八日本件建物の所有権を取得したは認め、その他の事実は否認する。

二  同二項(一)(二)の事実は認める。

三  同三項のうち、本件建物が訴外後藤長七郎の所有であつたことおよび被告東保が同訴外人から本件建物の所有権を取得したことは否認し、その他の事実は認めるが、法定地上権取得の主張は争う。

請求原因に対する被告花井の答弁

請求原因一項の事実は不知、同二項(二)の事実は認める。

被告花井の抗弁

被告花井は本件建物を被告東保より一ケ月金二、〇〇〇円の賃料で賃借している。

抗弁に対する答弁

抗弁事実は知らない。

証拠関係(省略)

理由

一  原告が本件土地を所有していることは、原告と被告東保間では争いがなく、原告と被告花井間では公文書であることにより真正に成立したと推定される甲第八号証によつて認めることができる。

二  被告東保が昭和三八年七月二四日以前から本件土地上に本件建物を所有して本件土地を占有し、被告花井が本件建物に居住して本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

三  次に、被告東保がその主張の如く本件土地を賃借したか否かについて検討する。被告東保本人尋問の結果およびそれにより真正に成立したと認められる乙第一三号証の一を綜合すると、同本人の供述は、同被告が昭和三〇年頃訴外後藤長七郎から中野区新井町五七七番地の四五の土地約二七坪を居住者なしの車庫の所有を目的として賃料一カ月金八〇〇円の約定で賃借したとの趣旨と認められるが、これが信用できるとしても右賃貸借契約は被告東保の主張する賃貸借契約と同一性があるとは認められず、他にこの点を認めることのできる証拠はないから、被告東保の賃借権の抗弁は採用できない。

四  次に、訴外後藤長七郎が、昭和三〇年六月一五日、その所有の本件土地について訴外光信用金庫のために元本極度額金二〇〇万円の根抵当権を設定し、同年七月六日訴外日本宣伝商事株式会社にこれを売渡し、同年二二日その旨の登記を経たこと、右抵当権設定当時本件土地上にあつた本件建物は訴外後藤長七郎、同後藤春枝、同鯛瀬幸枝の共有であり、被告東保は右三者から昭和三二年四月八日本件建物の所有権を取得しその旨の登記を経たこと(右抵当権設定当時本件建物が後藤長七郎の単独所有であつたことおよび被告東保が同人のみから本件建物の所有権を取得したことを認めることのできる証拠はない。)および訴外光信用金庫の申立により右抵当権が実行され、原告は昭和三七年一二月二〇日競落許可決定により本件土地の所有権を取得し、昭和三八年七月二四日原告のため所有権取得の登記を経たことは当事者間に争いがない。

以上の事実によれば、民法第三八八条の趣旨により訴外後藤長七郎は本件建物のため本件土地につき地上権を設定したものとみなされると解するのが相当である。

従つて、被告東保の法定地上権の抗弁は理由がある。

五  被告花井は本件建物を被告東保より一ケ月金二、〇〇〇円の賃料で賃借していると主張しているが、被告東保の本件土地の占有権限につき何ら主張していないから、被告花井の抗弁は主張自体失当である。

六  よつて、原告の被告花井に対する請求を認容し、被告東保に対する請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言は必要ないものと認めて付さないこととし、主文のとおり判決する。

別紙

目録

一 東京都中野区新井一丁目一七番一五

宅地   八一・一〇平方米

(二四・一五坪)

二 同所同番地

(登記簿上 東京都中野区新井町五七七番地一)

家屋番号 新井町一六七四番

本造瓦葺二階建 居宅  一棟

床面積 一階 四九・五八六七平方米

(一五坪現況約一八坪)

二階 一三・二二三一平方米

(四坪現況約四坪)

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